翻訳後編集(MTPE):用語集、抜き取り検査率、評価表
1. 用語が決まらないと、後編集はただの繰り返し作業になる
多言語コンテンツのローカライズ基準の決め方はローカライズの3つの判断基準で、公開前のチェック項目は多言語公開の品質ゲートで解説しました。表やグラフの数値と単位の扱いは多言語の図表のi18nをご覧ください。本記事で扱うのは、その間にある工程です。機械翻訳が初稿を出したあと、人はどう引き継ぎ、どれだけ抜き取り検査し、品質をどう評価して記録するのか。
MTPEは事前の採算計算が肝心です。1500字の技術記事なら、完全人手の翻訳で約6〜8時間。機械翻訳の初稿は1分、後編集は2〜3時間で、合計で半分以上の工数を削減できます。ただしこの計算が成り立つのは、後編集者が機械翻訳の初稿を見て言葉選びに迷わない場合だけです。「サーボシステム」「型抜き精度」「CE適合宣言」の訳がそれぞれ一つに決まっていれば、直すのは文型と語順だけです。同じ記事の中でサーボシステムが3通りに訳されていたら、編集者はそのたびに手を止めて確認することになり、後編集は効率の悪い翻訳作業に逆戻りして、かえって一発で訳すより高くつきます。
ですから工程の順序は絶対です。用語集が先、機械翻訳が次、後編集が最後。用語集が100件に届くまで、まとめてMTPEを回さないでください。まず1本で試して流れを調整します。
2. 用語集の最小構成と作成チェックリスト
用語集にシステムは要りません。3列のオンライン表が最小構成です。
| 中国語の用語 | 英語の用語(確定) | 使わない訳語 |
|---|---|---|
| サーボシステム | サーボシステム | サーボモーターシステム;サーボドライブ |
| 型抜き精度 | 型抜き精度 | 切断精度;型抜き公差 |
| CE適合宣言 | EU適合宣言書 | CE証明書;CEレポート |
| 納期 | lead time | 納期;生産サイクル |
| 公差等級 | 公差クラス | 公差等級;公差レベル |
第3列「禁用訳」は第2列「確定訳」と同じくらい重要です。ここで抑えるのは、機械翻訳エンジンや過去の原稿からすでに流出している誤訳です。抜き取り検査で禁用訳を見つけたら、その時点で不合格です。議論の余地はありません。
用語集はまず4カテゴリをカバーします。優先順位は次のとおりです。
| 用語カテゴリ | 推奨本数 | 情報源 | 検証担当 |
|---|---|---|---|
| 製品名・型番 | 40〜60件 | 製品カタログ、技術仕様表 | 技術エンジニア |
| 工程名・部品名 | 40〜60件 | 生産・工程ドキュメント | 技術エンジニア |
| 認証名・規格名 | 20〜40件 | 証明書原本、規格正文 | 品質または通関 |
| 商務・納品用語 | 30〜50件 | 契約テンプレート、見積書 | 貿易責任者 |
合計130〜210件で、2〜3日あれば構築できます。出典は証明書や契約書にある公式英文を優先し、翻訳者が勝手に作らないようにします。証明書に EU Declaration of Conformity と書いてあれば、用語集もそのまま写します。編集者が変える権限はありません。
三、用語集に入れる語、翻訳しない語
用語集に入れるかどうかの判断基準はただ一つです。訳し間違えると顧客に気づかれる、または商談で誤解を生む語は、すべて用語集に入れます。数値が1桁違う、認証名が間違っている、納期用語が曖昧——この3種類のミスは、海外バイヤーのメールで直接信用を落とします。逆に、純粋に修辞レベルの語は用語集に入れず、ポストエディットが語感で処理します。
用語集に入れることと対になるのが翻訳しないホワイトリストです。こうした内容は機械翻訳の前にそのまま保持するよう固定します。
| 翻訳しない項目 | そのまま保持する理由 | ポストエディットの注意点 |
|---|---|---|
| 製品型番・品番 | 1文字変われば別製品になる | 原文と1文字ずつ照合する |
| 商標・ブランド名 | 法的表示であり、翻訳すると権利侵害のリスク | 大文字小文字を公式表記に合わせる |
| 規格番号・認証番号 | EN 60335-1、UL 94 V-0 など。書き間違えると事実と異なる | 番号形式のスペースとハイフンを含める |
| 計量単位 | 単位換算は別ルールで、翻訳には含まれない | 数値と単位の間隔は目標言語の規範に従う |
| 会社名・登記住所 | 営業許可証と公式サイトを基準にする | 公式サイトと一致させる。句読点も含む |
ホワイトリストの実現方法は2つあります。翻訳エンジンの用語固定機能を使うか、機械翻訳の前にホワイトリスト項目をプレースホルダーに置き換え、翻訳後に戻すかです。前者は手間がかからない代わりにエンジンの対応が必要で、後者は確実な代わりにプレースホルダーが最終稿に残らないよう注意します。抜き取り検査でプレースホルダーの残留は重大な欠陥とみなし、その記事はそのまま差し戻してやり直します。
四、ポストエディットの3段階と工数係数
「ポストエディット」は一つの作業ではなく、深さの異なる3段階です。機械翻訳稿を受け取ったらまずどの段階を使うか判断します。段階を間違えると、工数を無駄にするか、品質が基準に届かないかのどちらかになります。
| レベル | 何をするか | やらないこと | 工数係数 | 適用する内容 |
|---|---|---|---|---|
| 軽度 | 誤訳、訳抜け、語順、数値・単位のみ修正 | 文型と語彙のスタイルには手を入れない | 0.3〜0.4(完全人手に対して) | パラメータページ、仕様説明、カタログ項目 |
| 中度 | 軽度の修正に加えて文型を書き直し、トーンを統一 | ローカライズの書き換えはしない | 0.5〜0.6 | 通常のブログ、ニュース、製品紹介 |
| 深度 | 中度をベースに、ターゲット市場の表現習慣に合わせて書き換え、事例や比喩を調整 | 事実とパラメータは変更しない | 0.7–0.8 | ランディングページ、業界インサイト、対外署名記事 |
3つの係数の意味はこうだ。中度ポストエディットでは1500字の記事1本に約2.5–3時間かかるのに対し、純粋な人手翻訳は6–8時間かかる。これがMTPEのコスト削減の源泉である。3つのルートのコスト比較をまとめると以下の通り。
| 道筋 | 1本あたりの工数(1500字) | コスト規模(純人手翻訳比) | 品質の安定性 |
|---|---|---|---|
| 純人手翻訳 | 6–8時間 | 100% | 翻訳者次第だが、ばらつきは小さい |
| 軽度ポストエディット | 2–2.5時間 | 30%–35% | 用語は安定、表現は平凡 |
| 中度ポストエディット | 2.5–3時間 | 45%–50% | 用語は安定、表現はオリジナルに近い |
| 深度ポストエディット | 4–5.5時間 | 70%〜80% | オリジナルに近く、人手コストに近い |
深度は純人手翻訳のコストに近いため、その記事がAIに引用されたり有料トラフィックを投じたりする場合にのみ使う。ディレクトリページに深度の工数をかけるのは無駄だ。多くのサイトの定常運用は、ディレクトリとパラメータページは軽度、ブログは中度、ランディングページは予算に応じて深度かオリジナルの二択とする。
バッチ内でも階層化が必要だ。同じバッチの10記事で、深度を先に、軽度を後にすると問題が起きる。正しい順序は、まず1–2本を深度で走らせて用語とトーンを校准し、残りの記事を中轻度で進める。校准した記事で決めた表現は用語集の新項目として蓄積され、後の記事ほど編集が速くなる。
五、抜き取り検査の比率:初回100%から10%–20%へ
抜き取り検査はMTPEの品質管理の核心であり、比率は固定ではなく、協業段階に応じて段階的に下げる。
| フェーズ | 抜き取り範囲 | 抜き取り比率 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 初回 | 全文を逐句 | 100% | 用語とトーンの基準を校准 |
| 最初の10本 | 各記事の前半にランダム2段落を追加 | 50% | 安定度を確認 |
| 11–30本目 | ランダムに段落を抽出 | 20% | 抑止力を維持 |
| 安定期 | ランダムに段落を抽出 | 10% | 定例モニタリング |
| 翻訳者またはエンジンを変更 | 初回基準に戻す | 100% | 再校准 |
どこを抜き取るかにはコツがある。抜き取り検査は冒頭200字、各小見出し下の最初の文、数字を含むすべての文をカバーしなければならない。機械翻訳とポストエディットの誤り分布は不均一だ。小見出しの最初の文は編集者が手を抜きやすい箇所であり、数字の文は誤りのコストが最も大きい箇所である。この2箇所の抜き取りの的中率は、通常ランダムな段落抽出の3倍以上になる。
降格も昇格もスコアで判断する。5本連続で抜き取り検査のスコアが4.5以上なら、抜き取り比率を1段階下げる。1本のスコアが3.5未満なら、その記事は全文やり直しとし、その翻訳者は次の5本で50%の抜き取り検査に戻す。ルールは翻訳者または翻訳チームとの契約条項に明記する方が、口頭での要求より効果的だ。
六、5次元評価表と合格ライン
抜き取り検査には統一の物差しが必要だ。5つの次元、各1–5点、加重合計4.0が合格ライン。
| 次元 | 配点 | 5点の基準 | 3点ライン(是正措置の発動) |
|---|---|---|---|
| 用語の正確さ | 30% | 確定訳とホワイトリストをすべて満たし、禁止訳がゼロ | 用語のずれが1〜2件 |
| 事実誤りなし | 25% | 数字・単位・型番・規格番号が原文と一致 | 数字または型番のずれが1件 |
| 文が自然 | 20% | 翻訳調がなく、区切りが目標言語の習慣に合っている | 一部の文は二度読み返す必要がある |
| トーンが統一されている | 15% | 公開済みコンテンツとトーンが揃い、人称と敬語も一致 | トーンが明らかに浮いている |
| リンクと書式 | 10% | 内部・外部リンクが到達可能、アンカーテキストが正確、書式がサイト内基準と一致 | デッドリンクまたはプレースホルダの残存が1件 |
合格ラインは加重スコア4.0以上、かつ事実誤りなしの項目が4点を下回らないこと——総合点が基準を超えても事実の軸が不合格なら差し戻し。この一票否決の理由は単純です。用語と読みやすさは品質の問題ですが、事実誤りはビジネス上の事故だからです。評価記録は翻訳者ごとにアーカイブし、3か月後には各翻訳者の弱点軸が見えてきます。そこに的を絞ってサンプルとフィードバックを渡すほうが、「品質を上げてください」と漠然と言うよりはるかに役立ちます。
七、問題のクローズドループ、機械翻訳の禁止領域、機械翻訳を使わない3つのケース
抜き取り検査で見つかった問題はクローズドループに入れなければ、同じミスが毎回のロットで再発します。ループは3ステップです。
| ステップ | アクション | 期限 | 成果物 |
|---|---|---|---|
| 用語集を更新 | 新しい誤訳を禁止リストに追加し、漏れていた項目を確定リストに追加 | 発見当日 | 用語集のバージョンを+1 |
| 同一ロットを再スキャン | 新しい禁止語で、納品済みの同一ロット原稿を全文検索 | 3日以内 | 再スキャン記録 |
| 問題データベースに記録 | エラー種別・翻訳者・対応結果を保管 | 発見した週 | 月次品質レポートの素材 |
再スキャンの工程が最も省略されやすく、代償も最大です。同じ誤訳が公開済み記事20本に含まれていた場合、後から1本ずつ直すコストは納品時に止める場合の5倍以上に膨らみ、公開済みページはGoogleやAIエンジンにもキャッシュされます。
4種類のコンテンツMTPEパイプラインへの投入を禁止:法規・コンプライアンス声明、保証・責任条項、見積・契約文書、安全警告文。この4種類に共通するのは、どの表現にも法的な帰結が伴う点です。機械翻訳+後編集では責任の境界を埋められないため、直接人手で翻訳し、業務責任者がレビューして署名します。
最後に、機械翻訳をそもそも使わない3つのケースです。対象言語が初出コンテンツの場合(機械翻訳の元になる原文がなく、たとえばドイツ市場向けに直接書くローカル特集はオリジナルの工程で進めます)。高価値のランディングページ(コンバージョン経路上のページで、深いリライトの工数はそもそもオリジナル予算で見るべきです)。150字以内の重要コピー(見出し、ボタンの文言、一言のセールスポイント。機械翻訳して編集するより、直接書くほうが速いです)。多言語サイトのプラグインとアーキテクチャのコスト計算は、多言語プラグインの隠れコストの記事の会計基準を参照してください。
FAQ よくある質問
最後に
MTPE は「機械でコストを削る」技術ではなく、「人が機械のミスに時間をかける」ための分業設計です。用語集は分業の土台、抜き取り検査の割合は信頼の目盛り、評価表は紛争の裁定——この三つが揃って初めて、機械翻訳は管理可能な生産性になります。どれか一つでも欠ければ、削減した工数は手戻りとクレームで倍返しになります。
まずは今週、3列の用語表を1枚作り、100件まで集めてください。来週は中程度の難易度の記事を1本使い、機械翻訳、後編集、100%抜き取り検査、評価のアーカイブまで一連の流れを回し、各工程の実工数を記録しましょう。それがあなた自身のコストモデルになります。
覚えておきたい一言:用語を厳密に定めるほど、後編集は自由になる——MTPE の品質の上限は、用語集を作ったその日に決まります。
